ウィルスとの戦い 1
1846年、
麻疹(はしか)が流行した。
この流行を受けデンマーク政府は
医師の派遣を決めた。
名前はピーター・ルドルフ・パルム。
パルムは流行について詳細に調査した。
島に麻疹を持ち込んだのは
捕鯨のためにやってきた10名の男達だった。
7,800人の島民のうち、 約6,900人が感染した。
初めは一人の感染者がでて
時間とともに感染者の数は増えていく。
それに続いて回復し、免疫を獲得した人が増える。
流行開始から30日でピークに達し
その時点での感染者は900人超。
流行は約60日で収束し、流行中のどの時点を取っても
感染者は島民の13%を超えることはなく
最終的に900人が感染を免れた。
これは集団免疫によるものと思われ
麻疹の場合、集団の93%が免疫を持っていれば
流行は起こらない。
たとえ数例の感染が起きても流行はすぐに収束する。
1875年、フィジー諸島で麻疹が流行した。
フィジー王室がオーストラリアを公式訪問した際に感染し、
帰国後の歓迎の宴により全土に拡散し
フィジー諸島全人口の25%を超える4万人もの人が亡くなった。
1951年に起きたグリーンランドでの麻疹の流行は
処女地における最後の大規模な流行と考えられている。
麻疹はありふれた病気の一つとなった。
麻疹は犬あるいは牛に起源を持つウイルスが
種を超えて感染し適応し
人の病気となった。
麻疹誕生の地はメソポタミア地方。
この地が
人類史上初めて、麻疹の持続的流行を維持するのに十分な
人口を有したからだ。
麻疹が社会に定着するには
数十万人規模の人口を必要とする。
紀元前3000年頃にメソポタミアに誕生した麻疹が
20世紀半ば、グリーンランドを最後に処女地をなくす。
地球の隅々まで到達し、定着するのに要した時間は
5000年。
麻疹は5000年を経てありふれた病気となった。